15歳の米国人中学生の留学体験記。日本という国で、日本人と生活し、日本文化を体験する彼と、彼と関わりを持つ方々が体験した異文化交流の記録である。そこには多くの日本人が抱く「国際交流」という華やかさはない。

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■ はじめに 目次
01 真の国際交流?
02 デミアン来日のいきさつ
03 受入れ態勢
04 思わぬ難題
05 日本の役割
06 ホストファミリー
07 混迷する査証(ビザ)
08 大和魂を学びたい
09 入国審査
10 デミアン君の来日
11 学校と家庭
12 異文化
13 いじめ
14 生徒の反旗?
15 深まる謎
16 憂える国際化の末路
17 家庭生活
18 文化摩擦
19 血尿
20 修学旅行
21 お金の問題
22 異文化の狭間で
23 どうすべきであったのか
24 自由とは何か
25 いじめの中の帰国
26 終わりに

筆 者: 濱 田 純 逸

21.お金の問題

日本から海外に留学に行く学生で、その費用を自分で貯蓄して行く学生はほとんどいない。ましてや、中学生の年齢で、志を抱き、そのためにバイトをしてお金を稼ぐという生徒は、まず、皆無であろう。また、社会環境や家庭環境、学校環境もそれを実現化させるには、余りにもほど遠いのが日本社会である。この日本に、中学生の定期的なアルバイトを認めてくれる親がいようか。小学生でお金を稼ぐ行為を認めてくれる社会環境があろうか。ところが、アメリカ社会の大人たちは、子供達のアルバイトは、社会生活を理解する上で、大変良いことであるという認識を持っている。ある目的のためにお金を稼ぎ、それを手にして、そして使うという一連の経済行為を通して、社会のシステムを理解させるためには、アルバイトは大変良い体験学習であるというのである。

実際、筆者は夏の暑い日に、ある町の住宅街で、自宅の庭先にテーブルを広げて、道行く人にレモネードを売っている幼児達、5、6名に出くわしたことがある。車から降りて、その子たちの中で、ひときわ小さな子供に年齢を尋ねたら、その子は三才と答えた。六才の幼児を先頭に、三才までの子供達が、マクドナルドから大きな飲物入れを借りてきて、氷と水とレモネードの原液を混ぜて、これもまたマクドナルドの紙コップ一杯、25セントで道行く人に売っているのだ。それも、一人はプラカードを持った歩く広告塔、一人はお金を受け取り、一人はお釣を渡す役と、完全な作業分担である。さらには、マクドナルドが彼らのバイトに無償で協力し、彼らが使っている容器やコップや机を提供したと聞いて、二度びっくりしたことがある。また、アメリカの事務所に一日中いると、キャンディやチョコレート売りの少年達や、クーポン券を販売したりする少女達たちが、時折、ドアをノックする。すべてがある目的のための資金活動である。企業から商品を預かり、受託販売して販売手数料を企業から受け取る。そのような活動に対して、企業も協力し、地域社会も協力し、そのシステム自体が社会の中に確立されているので、その活動そのものに不信感を感じたり、違和感を覚える人はいないのである。

だから、デミアン君だって、そのような経過をたどって日本に来ているのは、想像に難くなかったし、そう理解するのが極めて常識的なアメリカの価値観である。親が金を出すから、行ってらっしゃいという日本の家庭とは、全く、異次元のお金に関する環境なのだ。行きたかったら、自分で何とか努力しなさい。そして、その姿勢に、親は援助の是非を考えようとするだけである。だから、彼にとっての修学旅行は、その金銭的工面をどうするかという切実な現実問題だけが、当然、先に来るのである。何も驚くことはない。何も同情されることはない。当人自身の極めて個人的な問題であり、これが彼らの文化なのだ。

「参加しない」という彼の言葉は、「参加できない」という経済問題の本音だった。センター側は、彼が育った国のお金に関する価値観と文化を知っているがゆえに、そしてまた、日本での義務教育における、修学旅行の原則参加義務の拘束性を理解できるがゆえに、その対応に苦慮した。ただ単に、お金の問題ではない。文化の問題が背景にあり、その強要には文化の相違までをも理解させねばならない。でも、何故参加せねばならないのかという問題と、相手に金銭的出費を強要する問題とは、本質的に異なる。文化の相違は理解させ、納得できても、それに伴う金銭的支払いは、あくまでも個人的な現実問題でしか有り得ないのである。つまり、文化は理解した。でも、その理解した文化を実践するために、お金が要るのである。そのお金はどうすればいいのだろう。それを現実的に解決する彼等の文化、すなわち、自分でアルバイトをしてその金を稼ぐという方法論は、日本という異文化では、ほとんど非現実的なことであり、所詮無理な話しであった。

22.異文化の狭間で

 

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