15歳の米国人中学生の留学体験記。日本という国で、日本人と生活し、日本文化を体験する彼と、彼と関わりを持つ方々が体験した異文化交流の記録である。そこには多くの日本人が抱く「国際交流」という華やかさはない。

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■ はじめに 目次
01 真の国際交流?
02 デミアン来日のいきさつ
03 受入れ態勢
04 思わぬ難題
05 日本の役割
06 ホストファミリー
07 混迷する査証(ビザ)
08 大和魂を学びたい
09 入国審査
10 デミアン君の来日
11 学校と家庭
12 異文化
13 いじめ
14 生徒の反旗?
15 深まる謎
16 憂える国際化の末路
17 家庭生活
18 文化摩擦
19 血尿
20 修学旅行
21 お金の問題
22 異文化の狭間で
23 どうすべきであったのか
24 自由とは何か
25 いじめの中の帰国
26 終わりに

筆 者: 濱 田 純 逸

05.日本の役割

オーストラリアやニュージーランドにおける、中学校や高校(中等教育)での、主要な第二外国語は、何語であるか、読者の皆様はご存知であろうか。イタリア語か? フランス語か? 果たして、スペイン語か? 答えは、「日本語」である。すなわち、オーストラリアやニュージーランドの多くの中学生や高校生は、第二外国語として、日本語を勉強しているのである。この事実を、果たして、どの程度の日本人の方がご存知であろうか。結局は、ほとんどの日本人が、海外での日本、及び日本人に対する認識に無知であるから、日本が世界に対して、何をなすべきかを知ることがない。マレーシアにおけるマハティール首相の提唱した、「ルックイースト政策」などもまた、日本の世界的な位置づけを、象徴的に示していることの一つであろうけれども、このこともまた、当事者である多くの日本人が、その意味の重要性を全く認識していない。

日本人はただひたすら、英語を学習することに大変熱心である。しかし、日本語を外国人に教えることには、大変不熱心な国民である。海外に行くたびに、こう思い続けていた。日本人の誰もが英語を話したいと願い、それに多大な努力を払う。その願いに呼応するかのごとく、英語圏における「第二外国語として英語を学ぶ人のための教授法」は、大変研究され、充実し、準備されている。その充実した対策と整備された学習環境が、日本人学生の「語学留学」や「大学留学」を助長、促進させているのは言うまでもない。

反面、現在、日本語を学習している海外の生徒達に対して、どのような対応を私達は行なっているのであろうか。教授法を始めとする、「第二外国語として日本語を学ぶ人のためのもの」が、果たして、どの程度この国で整備されているのであろうか。日本語を、日本文化を勉強したいと希望する、多くの外国人の声に、日本人自体はどう応えているのであろうか。それに応えようとする日本人の気持ちや、彼等の求めるものを理解する姿勢があれば、もっと世界に対して門戸を開き、その研究に時間と労力を費やし、その環境は整備されていくはずだ。でも、それを望む外国人の需要の声すら、耳を傾けるものは少ない。自分が求めることには熱心でも、他人に与えることにはうわのそらだ。

「留学生10万人計画」も、そのような背景の中で生まれた、世界の中の日本を自負する政策の一つであったはずだ。海外から数多くの外国人を招致することが、自国の理解を深めさせる最良の方法であるし、世界貢献にも連動するし、日本語も、日本文化も世界に浸透させる。その効用は測りしれないほど、莫大なものである。戦後、日本は経済的大成長を成し遂げ、世界のGNPの第二位を誇る、経済大国の現実を背景に、各国の人々は、「日本語」の重要性を認識し始めた結果が、いずれもなせるわざなのであるが、残念ながら、肝心要の「日本人」が、その現実と事実を、全く認識していない。そこに我が国の喜劇があり、彼らの悲劇があるのである。

無心に一生懸命走っている。気がつくとほとんどのものを追い越している。それでもまだ、前を誰かが走っていると思い、一生懸命走っているのである。走ることのみに専念していたものが、追い越された者を煩うのは、そんなにも難しいことなのか。一緒に走っていたではないか、走っているではないか。リーダーとは、自分が求めるものに専心するのではなく、自分を必要とする彼等が、求めるものに専心することが、その資質なのではないのか。

そんな挫折感に思いを馳せている中、電話のベルが鳴った。中峯先生からであった。デミアン君の受入れを、中学校や県教委と具体的に進めている中、単なる聴講生的な扱いにするのか、生徒の一人として扱うべきなのか、私の意見を求められた。生徒の一人として、純粋に他の生徒同様の扱いが、彼にとって最も望ましいと答えて電話を切ったが、頭の中は、彼の入国査証の問題だけで、それどころではなかった。しばらくして、再度、中峯先生から電話があった。いわく、県教委を通して文部省本庁から連絡があり、このような事例は大変まれであるが、国際交流を積極的に促進している文部省としては、デミアン君の「学籍」をとり、桜島中学校の生徒数も、プラス1とするようにという指導があったとのことであった。すなわち、教科書も無料配布の対象でもあるということだ。

文部省のこの積極性と、法務省のこの閉鎖性の間で心が揺れた。言わずとしれた、縦割り行政の矛盾に苦笑した。そして、一方で、既に県教委や文部省までに波及した、善意による、デミアン君の受入れ作業の展開をみて、今更、引き下がれないという思いを強くした。

06.ホストファミリー

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