15歳の米国人中学生の留学体験記。日本という国で、日本人と生活し、日本文化を体験する彼と、彼と関わりを持つ方々が体験した異文化交流の記録である。そこには多くの日本人が抱く「国際交流」という華やかさはない。
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筆 者: 濱 田 純 逸 05.日本の役割オーストラリアやニュージーランドにおける、中学校や高校(中等教育)での、主要な第二外国語は、何語であるか、読者の皆様はご存知であろうか。イタリア語か? フランス語か? 果たして、スペイン語か? 答えは、「日本語」である。すなわち、オーストラリアやニュージーランドの多くの中学生や高校生は、第二外国語として、日本語を勉強しているのである。この事実を、果たして、どの程度の日本人の方がご存知であろうか。結局は、ほとんどの日本人が、海外での日本、及び日本人に対する認識に無知であるから、日本が世界に対して、何をなすべきかを知ることがない。マレーシアにおけるマハティール首相の提唱した、「ルックイースト政策」などもまた、日本の世界的な位置づけを、象徴的に示していることの一つであろうけれども、このこともまた、当事者である多くの日本人が、その意味の重要性を全く認識していない。 日本人はただひたすら、英語を学習することに大変熱心である。しかし、日本語を外国人に教えることには、大変不熱心な国民である。海外に行くたびに、こう思い続けていた。日本人の誰もが英語を話したいと願い、それに多大な努力を払う。その願いに呼応するかのごとく、英語圏における「第二外国語として英語を学ぶ人のための教授法」は、大変研究され、充実し、準備されている。その充実した対策と整備された学習環境が、日本人学生の「語学留学」や「大学留学」を助長、促進させているのは言うまでもない。 反面、現在、日本語を学習している海外の生徒達に対して、どのような対応を私達は行なっているのであろうか。教授法を始めとする、「第二外国語として日本語を学ぶ人のためのもの」が、果たして、どの程度この国で整備されているのであろうか。日本語を、日本文化を勉強したいと希望する、多くの外国人の声に、日本人自体はどう応えているのであろうか。それに応えようとする日本人の気持ちや、彼等の求めるものを理解する姿勢があれば、もっと世界に対して門戸を開き、その研究に時間と労力を費やし、その環境は整備されていくはずだ。でも、それを望む外国人の需要の声すら、耳を傾けるものは少ない。自分が求めることには熱心でも、他人に与えることにはうわのそらだ。 「留学生10万人計画」も、そのような背景の中で生まれた、世界の中の日本を自負する政策の一つであったはずだ。海外から数多くの外国人を招致することが、自国の理解を深めさせる最良の方法であるし、世界貢献にも連動するし、日本語も、日本文化も世界に浸透させる。その効用は測りしれないほど、莫大なものである。戦後、日本は経済的大成長を成し遂げ、世界のGNPの第二位を誇る、経済大国の現実を背景に、各国の人々は、「日本語」の重要性を認識し始めた結果が、いずれもなせるわざなのであるが、残念ながら、肝心要の「日本人」が、その現実と事実を、全く認識していない。そこに我が国の喜劇があり、彼らの悲劇があるのである。 無心に一生懸命走っている。気がつくとほとんどのものを追い越している。それでもまだ、前を誰かが走っていると思い、一生懸命走っているのである。走ることのみに専念していたものが、追い越された者を煩うのは、そんなにも難しいことなのか。一緒に走っていたではないか、走っているではないか。リーダーとは、自分が求めるものに専心するのではなく、自分を必要とする彼等が、求めるものに専心することが、その資質なのではないのか。 そんな挫折感に思いを馳せている中、電話のベルが鳴った。中峯先生からであった。デミアン君の受入れを、中学校や県教委と具体的に進めている中、単なる聴講生的な扱いにするのか、生徒の一人として扱うべきなのか、私の意見を求められた。生徒の一人として、純粋に他の生徒同様の扱いが、彼にとって最も望ましいと答えて電話を切ったが、頭の中は、彼の入国査証の問題だけで、それどころではなかった。しばらくして、再度、中峯先生から電話があった。いわく、県教委を通して文部省本庁から連絡があり、このような事例は大変まれであるが、国際交流を積極的に促進している文部省としては、デミアン君の「学籍」をとり、桜島中学校の生徒数も、プラス1とするようにという指導があったとのことであった。すなわち、教科書も無料配布の対象でもあるということだ。 文部省のこの積極性と、法務省のこの閉鎖性の間で心が揺れた。言わずとしれた、縦割り行政の矛盾に苦笑した。そして、一方で、既に県教委や文部省までに波及した、善意による、デミアン君の受入れ作業の展開をみて、今更、引き下がれないという思いを強くした。 |
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