15歳の米国人中学生の留学体験記。日本という国で、日本人と生活し、日本文化を体験する彼と、彼と関わりを持つ方々が体験した異文化交流の記録である。そこには多くの日本人が抱く「国際交流」という華やかさはない。
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筆 者: 濱 田 純 逸 11.学校と家庭空港から約1時間余りで、桜島中学校に到着した。車を降りて校長室に向かう。学校長の川嵜先生と担任の土岐先生、英語の木村先生にも、私たちにしたのと全く同じ日本語の挨拶をする。そこにいる誰もが緊張して、何を話していいかわからない。そんな中、彼の坊主頭に話題が集中した。そして、誰もが一同に感心する。 「日本人の心を知るために、坊主頭になったんだねぇ。」 我々の話している、取り留めのない日本語についていけない彼が、目を白黒させている。その間も、まるで出家した子供を賞賛するような口調で、彼の坊主頭に対する賛辞が続いた。そして、現実に留学生を目の前にして、今後の現実的な検討材料が、次から次へと、世間話も手伝って具体的に出てくる。「学校でのトイレは?」「制服はどうするか?」「授業中の扱いは?」「日本語の理解力はどの程度か?」「カバンや指定の靴はどうするか?」「給食でどうしても食べられない献立内容の場合はどうするか?」等など。彼を受入れるための話し合いが、延々と続いた。 長旅の疲れを気遣った校長先生が、話しを中断してくださり、ホストファミリーである原さん宅に向かう事ができた。学校から歩いてわずか5分のところである。折りしも出掛けのお父さんは、「おう、よう来た。よう来た。お前がデミアンや。オイはちょっと用があっで、出てくっどん、ユックイせぇよ。(よく来たね。君ががデミアン君か。自分は用事があるから外出するところだけど、ゆっくりしなさい。)」とだけ言うなり、そのまま外出された。彼がわかろうが、わかるまいが、お構い無しなのである。彼が居ようが、居まいが、自分の日常生活には無関係なのである。見事なほどの日本の父親だと思った。即かず、離れずのその間合いが絶妙である。短い言葉の中に、必要なことはすべて話しきっているのである。その証拠に、お父さんの話しの意味を説明されたデミアン君は、ちゃんとお父さんの気持ちと人間性を理解している。言葉以上に、人間の持つ顔の表情や、一挙手一投足は、多くのことを語っているのである。 お母さんは、「アラ、頭を丸めて来てねぇ。」と言いながら、小さい子供にでもするように、頭をなでる。中学一年生と小学五年生の男の子二人は、「ハロー」と言うなり、すぐに頭を引っ込めて、外へ出ていったまま帰ってこない。幼稚園児の三男だけが柱の後ろに隠れて、珍しいものを見るように、ずうっとデミアン君を見続けていた。 初めての外国からの客を迎えた家の中では、たまたま居合わせた家のものが、話題作りに躍起となり、二言三言の返事にさえも、皆が無理して笑おうとする。続かない言葉のキャッチボールに、挙げ句の果ては、みんな黙ってニコニコしているだけである。 道路を隔てて、錦江湾が眼下に広がる高台に、原さん宅は鎮座している。そして、その錦江湾が見渡せる一等部屋に、原さんは彼のベッドを置いてくれた。素朴なもてなしと口数の少ない歓迎は、逆に、原さん一家の心にある、暖かさを感ずるに充分のものであった。さらにそれは、彼の部屋から見える錦江湾と、夕日に映える霧島山麓の景色が示唆してくれる。荷物を部屋に運んで、その景色に見入る間もなく、階下で声が聞こえた。 「デミアンはもう来たとか。」と、旧知の親戚を迎えるような素振りで、近くに住む原さんのお母さん、すなわち、おばあちゃんが大きな声でそう言いながら、お盆にいっぱいの手作りのご馳走を持ってきて、歓迎の夜が始まった。 次の日から、早くも学校が始まった。学校が始まる前に、役場へ行き、町長や助役、教育長に挨拶を済ませ、留学にいたるまでいろいろな事務手続をしてくれた、教育委員会の中峯先生にもお礼を言った。どこへ行っても日本式の挨拶に、デミアン君は結構ついていく。お辞儀をして、日本語で簡単な自己紹介をして見せてくれる。それらも手伝って、彼は急速に地域の方々に知られていった。また、ホストファミリーの原さん宅は、自宅隣りでガソリンスタンドを経営されており、彼はその仕事を積極的によく手伝った。そうすることで、数多くの町民の方々と出会うきっかけを作る事ができたのである。そして、その環境は、彼が生きた日本語を学習するのに幸運であった。また、三人の息子さん達が空手を習っており、日本の武道を学びたいという彼の希望も、息子さん達と同じ道場に通うことによって叶えられた。一週間もすると、彼が外国人ということもあって、この町の5千人ほどの町民のほとんどが、彼の存在を知るようになっていた。
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