15歳の米国人中学生の留学体験記。日本という国で、日本人と生活し、日本文化を体験する彼と、彼と関わりを持つ方々が体験した異文化交流の記録である。そこには多くの日本人が抱く「国際交流」という華やかさはない。

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■ はじめに 目次
01 真の国際交流?
02 デミアン来日のいきさつ
03 受入れ態勢
04 思わぬ難題
05 日本の役割
06 ホストファミリー
07 混迷する査証(ビザ)
08 大和魂を学びたい
09 入国審査
10 デミアン君の来日
11 学校と家庭
12 異文化
13 いじめ
14 生徒の反旗?
15 深まる謎
16 憂える国際化の末路
17 家庭生活
18 文化摩擦
19 血尿
20 修学旅行
21 お金の問題
22 異文化の狭間で
23 どうすべきであったのか
24 自由とは何か
25 いじめの中の帰国
26 終わりに

筆 者: 濱 田 純 逸

19.血尿

9月下旬の頃、突然、デミアン君からセンターに電話が来た。彼が恥ずかしそうに言うには、尿の中に血が混じるようになったというのである。心配で、病院に行きたいと言う。すぐに、翌日の午前中に、鹿児島市内の泌尿器科の病院に予約を入れた。

医者による診断の結果は、疲れと精神的ストレスということであった。原因は運動会の予行練習などで、体力的な疲労によるものだと本人は言うが、異文化での不慣れな精神的心労が大きいのだろうというのが、周囲にいるものの大方の意見であった。異国での体の変調は、精神的にかなりこたえる。気弱になるし、孤立感や疎外感を感じるものである。ましてや、交流目的で来日したにもかかわらず、すぐに無視され、クラスに仲のよい友達はいないという、不安の真っ最中における身体の不調である。それでも本人は、不安な気持ちや泣き言や弱音は一切言わない。

帰りの桜島までのフェリーの上で、遅い昼食を誘った。朝から何も食べていないし、サンドイッチとジュースの軽食程度だったら、おごってやるよと申し出たが、「いらない」と答えただけで、隣りに座って、あとは桜島の方だけをじっと見ていた。何を考えているのだろうか。ぎりぎりの崖っぷちで、異文化という巨大なお化けと孤独感に、一人耐えているようなそんな感じだ。しばらくして、たわいの無い世間話を持ち出しながら、私達に無理して笑顔で接しようとするのが、却って痛々しかった。

フェリーが埠頭に着いて、下船の途中で、町民らしき人と何か話しをしている。また、旧知の人なのだろう、乗組員の一人とも親しそうに話している。何事もないことだけれども、私の知らない日本人と、彼が話しをしているのが嬉しかった。でもそれは、ほんのひとときの安堵であった。たとえそれが病院であっても、ひとときのアバンチュールであったのだろうか。そう考えれば、益々、心が痛んだ。原さん宅まで向かう車の中は、また寡黙であった。現実の生活に帰っていく。彼と同様、そこに送り届ける者も辛かった。私には適切な助言が見つからなかった。また、無視し続ける生徒達に、話し掛ける言葉も見当たらなかった。集団無視のいじめは、相変わらず続いていた。この頃が、彼の留学の最悪の時であった。

20.修学旅行

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