アカデミックホームステイに参加したある中学生のホームステイ記録(日記)です。彼女がホームステイの中で、何を感じ、何を思い、何を考え、何を得たのか。

HOME > ある中学生のホームステイ日記 > 20日目 08月19日

 
■ はじめに 目次 登場人物
■ 01日目 07月31日
■ 02日目 08月01日
■ 03日目 08月02日
■ 04日目 08月03日
■ 05日目 08月04日
■ 06日目 08月05日
■ 07日目 08月06日
■ 08日目 08月07日
■ 09日目 08月08日
■ 10日目 08月09日
■ 11日目 08月10日
■ 12日目 08月11日
■ 13日目 08月12日
■ 14日目 08月13日
■ 15日目 08月14日
■ 16日目 08月15日
■ 17日目 08月16日
■ 18日目 08月17日
■ 19日目 08月18日
■ 20日目 08月19日
■ 21日目 08月20日
■ 22日目 08月21日
■ 23日目 08月22日
■ 24日目 08月23日
■ 25日目 08月24日
■ 26日目 08月25日
■ 27日目 08月26日
■ 28日目 08月27日
■ 29日目 08月28日
■ 30日目 08月29日

筆 者: 濱 田 純 逸

●08月19日 火曜

今日はうれしくって【注085】しようがない。すばらしい風景も見られたし、おみやげもたくさん買えた。あのスペースニードル【注086】に乗れたなんて感激!!上から見るとシアトル市は夜景がびっくりするほどきれいで……。スージーさんに感謝しなくっちゃ。スぺースニードルのおみやげ屋さんで、日本の男の子が「アッ! これ、メイドインジャパン【注087】だ。」と騒いでいて笑ってしまった。本当に気をつけないと日本の品物がすごく多い。なんかいやだな。日本車も多いし。町を歩いていても時々目につく黒い髪【注088】。でもとにかくおみやげは買えた。カレンダー三枚、遊びの道具三つ。もちょっとよけいに買っとけばよかった。なかなかてごろだったのになあ。写真も一本とちょっと撮った。この調子で毎日がんばらなくっちゃ。家に帰ったらイサクくんが待っていて、またお礼を言ってくれた。三人とも腰にぶらさげてチリンチリン鳴らせている。うれしくなっちゃうなあ【注089】。夕食にこの前釣った魚が出た。白身の上等な魚なのに、子供たちは全然食べようとしない。おいしくって二きれ食べたらびっくりしていた。どこがいやなんだろう、あんなにりっぱなお魚の。このごろは毎日おかわりしている【注090】。悪いかなあ。いや、今ごろそんなこといってたら生活していけないんだ。明日は楽しみにしていたマクドナルド。ワァーイ。ホットドッグにコーラにアイスクリームが食べたいなあ。でも五ドルしかない。たりなくなったら借金をしなくっちゃいけない。寺尾先生【注091】に手紙も出そう。

注085
8月16日の節目を境に、身も心も快方に向けて進んでいることがよく窺える。今日のこの日記の出だしなどは、その象徴的なものであろう。気分やわだかまりが晴れて、何事も前向きに取り組んで、明るく、開放的で、躍動感にあふれる生き生きとした姿勢が至る所に見られる。
注086
シアトル市を象徴する有名な建物である。高い塔状の形をしており、中央にエレベーターがあり、最上階には展望台や、レストランなどがあり、多くの観光客が訪れるところである。
注087

観光地に限らず、アメリカで販売されている多くの品物は、アメリカ製品ではなく外国製品が非常に多い。貿易赤字国たる所以であろう。特に、中国を中心とするアジア各国の製品が目に付く。ここで指摘されているように、自動車、電化製品、音響製品、映像機器、光学機器などは依然として日本製が多い。

注088

この感慨なども注目に値する。すなわち、日本から到着した翌日の8月1日における日記では、マネキンの髪の色が黒色だったことに対して、「なんだかそれみたら楽しくなっちゃった。」と表現していた彼女がいたことを、既に私達は承知している。しかし、その18日後のこの日には、周囲に日本車が多かったり、日本製品があったり、時々目につく黒い髪などのことで、「なんかいやだな。」というのである。つまり、ホームステイ当初、黒い髪は勇気付けられるものであったのに対して、この日の黒い髪はいやなことの対象として書いているのである。この変化は、当然彼女の心のゆとりから生まれていると分析できる。

慣れない異文化生活では、心が不安定なため、少しの共通性も自分に近い立場のものとして理解しようとしていたものが、慣れてきた異文化生活では、心に余裕があるため、少しの共通性を否定的に見てしまっている。分かり易く例えれば、異国で不安なとき日本人に会えば、嬉しくて話をしたくなっても、余裕のあるとき日本人に会えば、知らない顔をするのと同じ理屈である。彼女の中における異文化での適応状態を、垣間見ることができるくだりである。

注089
友達のイサクくんが彼女を家で待っていて、再度プレゼントのお礼を言われ、自分の妹達を含めて三人がそれを気に入っていることに対して、非常に素直に「うれしくなっちゃうなあ」という彼女の純粋さを日記で見る私達も、心が和まされるところである。自分が感じた素直な気持ちや感情、思いを、これだけ素直な言葉で書かれたものを私は知らない。
注090

何気なく読めば読み過ごしてしまうところであるが、この述懐も極めて重要で、象徴的なところである。そして、私には彼女の新たな現実が見えてくるくだりでもあった。「このごろは毎日おかわりしている。」と言いながらも、「悪いかなあ。」と言うのである。これまで、ホームステイ中の食事に関する彼女のコメントを分析してみる。

まず弁当に関する記述では、8月5日に「アメリカのお弁当はすごく貧しい。」とあり、8月7日に「昼食もサンドウィッチ一個に、もも一個だもんなあ。」と言う。さらに、8月12日では「昼の弁当がサンドウィッチ一個!ガーン!!」となり、そこで、意を決して「今日の昼の弁当は少なかった。」とキャシーに言うのである。すると、8月13日に「今日はなんと、サンドウィッチ二個にみかん、クッキーつきだった。もうしあわせですよ。」と記され、その後においてはお弁当に対する不満のコメントは見られず、8月28日の最後の日に「空港に着いた時、開いたお弁当。みんなすごい!手作りのクッキー、果物、サンドウィッチ。私も今日はピーチつきのお弁当、おいしかった。」で終わる。

ここから得られるものは、彼女が意を決して、「今日の昼の弁当は少なかった。」とキャシーに言ったときから、お弁当の問題は解決しているのである。次に、一般的な食事に関する記述では、8月2日に「朝はパンと紅茶、昼はパンと紅茶と?。夜はパンと紅茶とスープ(あか色)。今日はなんとお茶やさつまあげが出た。おいしくってたくさんたべた。」とある。また、8月7日には「食事がすごくまずしい。おかしみたいなものだ。日本の食事のごうかさが目にうかぶ。」と書かれ、8月9日の土曜日は休みで、グループ活動ないため、「今日は昼ごはんがすごく豪華だった。カレーにそっくりのものとポテトチップス、アップルジュース。そういえば、夕ごはんにすいかも出た。」と昼と夜の食事内容が書いてある。そして、この日の8月19日、「このごろは毎日おかわりしている。悪いかなあ。」と言うのである。ここでいう「このごろ」とはおそらく例の事件後の8月17日以降のことであろう。つまり、8月17日以降は「毎日おかわりしている」というのである。このことは、「それ以前はおかわりをしていなかったか、おかわりできなかったか」と同意である。すなわち、彼女の食事をとる姿勢が少なくとも変わったと言うことであり、だからこそ「悪いかなあ。」とも思うのである。

では、どのような変わったのかと言うことにおいても、その次にちゃんと回答を彼女は用意しているのである。いわく「いや、今ごろそんなこといってたら生活していけないんだ。」なのである。このことから、私達は何を得られるか。おそらく推察できることは、お弁当では彼女が自己主張したことによって問題を解決できたし、食事では「毎日おかわりして」問題を解決したのである。「悪いかなあ。」と、彼女がいみじくもその図々しいと思えるような自己主張や要求を憂慮したように、彼女における変化は、積極性や自主性に基づくものである。だから、彼女は積極的に自己主張をし、間違いや失敗を恐れず、まず主体的に行動することの重要性を学習し、そう適応していったのである。それらの経緯をここにも読み取ることができる。

注091
中学校の彼女の英語教諭である。

 ⇒ 翌日(21日目 08月20日)へ

登 場 人 物
中学二年生のホームステイ参加者/鹿児島県出身 田中みゆき
ホストファーザー/ワシントン州シアトル市在住 ジム アレトン
ホストマザー キャシー アレトン
7歳の双子の姉 ラナ アレトン
7歳の双子の妹 キム アレトン
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