午前8時、いつものように生徒たちは登校すると、バディたちは、「今日は一緒に授業に出られないの?」と、寂しそうに聞きにきます。たった4日間という短い期間ではありましたが、バディにとっても、一緒に授業を受け、ランチを食べ、時間を共有した日本人生徒たちが、大事なトモダチとなったことを感じる瞬間でした。今日の予定は、午前中ニューマーケットスキルズセンターという職業訓練学校に行き、そのあと買い物。そして午後からは、このプログラムを締めくくるサヨナラパーティーの準備です。18時半から予定されている本番まで、出し物の練習と会場設営、リハーサルを行なわなくてはなりません。長い一日になりそうです。クリスティ先生とは、いよいよここでお別れです。生徒一人一人をハグしながら、得意の日本語で「ありがとう。」、「頑張って。」、「また帰ってきてね。」と言葉をかけてくださいました。別れを惜しみつつ、レネ先生方の車に乗り分けて、ニューマーケットを目指します。
ニューマーケットスキルズセンターは、この地域の高校に通う生徒のための職業訓練施設で、1〜2年単位で履修授業の一コマとして登録し、職業の基礎知識や専門用語を学んだり、実習やインターンを行なって、就職に必要な技能を身に付けるための公立の学校です。まずはじめに、案内をしてくれる学校のアシスタントディレクターのブラッドショーさんが迎えてくれました。今日は、全米技能大会の州予選が行なわれているそうで、学校内はいつもよりも静かだということでした。25名の日本人生徒たちが、見学ツアーをさせてもらうには、ちょうどよかったかもしれません。ブラッドショーさんの案内で、校内を見てまわります。
まずはじめに見せていただいたのは、ビジネスアカデミーのクラスです。実際にこのクラスをとっている高校生が、授業内容について説明をしてくれました。ファイナンス(金融)についての基礎知識を学び、インターンとして実際に銀行で働くチャンスもあるということ。また、就職のための履歴書(レジュメ)やカバーレターの書き方、ビジネスカードの作成なども授業で教わるそうです。将来的には、銀行員やファイナンシャルプランナー、会計士などを目指す学生が集まっています。授業内容も然ることながら、かなり大人っぽい高校生らの外見に、少し圧倒される日本人生徒たち。WMSの生徒たちも十分大人っぽくみえましたが、高校生となると、メイクや服装の違いもあって、同じ年齢の日本人生徒と比べると、かなり年上のようです。教室の様子を写真に撮らせてもらいながら、次の棟に移動します。
次は、オートモーティブ(自動車整備)の授業です。この地域に住む一般の方が持ってこられた車を、実際に修理したり、検査、塗装をしたりしているそうです。その隣りは、建築について学ぶクラス。建物の基礎工事から製図、建築まで、自分たちが設計した家のミニチュア版を作って、勉強するとのこと。ミニチュア版といっても、公園などにある子ども用のお家くらいの大きさで、手の込んだ作りとなっていました。続いて、クリミナルジャスティス(刑事司法)のクラスでは、かつては刑事として活躍されていたという講師の方が、日本人生徒たちのために面白いテストを用意してくださいます。酔っ払った人の視覚を体験できるゴーグルをかけて、床にまっすぐに貼られたテープの上を、両手を広げずになぞって歩くことができるかのテストです。私も実際に試させてもらいましたが、本当に目が回ってしまいそうになる程に視界がゆがみ、思わず転んでしまいそうになりました。他にも、獣医学、看護学、コンピューターサイエンス、プログラミングの教室を見せてもらい、最後に調理科の先生のお話を聞いてツアーは終了です。調理科の生徒たちが実際に作り、販売まで行なっている校内のカフェテリアで、ランチタイムをとります。記念として、学校からドリンクボトルとボールペンをもらいました。
次に向かうのは、生徒たちが心待ちにしていたショッピング。全米に店舗を展開するスーパー、ウォルマートに行きました。広大な売り場敷地に、天井の高い店内は、まるで倉庫のような空間です。お目当ては、「日本へのお土産」である子がほとんど。チョコレートやクッキーなどが並ぶお菓子売り場が、日本人生徒らで占領されています。「これはどんな味ですか?」、「おすすめは何ですか?」と、私やレネ先生に聞き、パッケージと値段をじっくりと読みながら選んでいる姿が、とても可愛らしく感じられました。店内には食料品だけでなく、衣類や日用品、電化製品、スポーツ用品、化粧品、文房具など、何から何まで揃っています。生徒たちのカゴを覗くと、クッションやカレンダーなど、アメリカの記念になるものも吟味しているようでした。中には、「え、それ要る?」というようなものもありましたが、ご家庭でのお土産話を楽しみにお待ちください。自由時間は一時間としていましたが、みんな時間通りに集合してくれました。
WMSに戻り、作業にとりかかります。まずは、ホストファミリーへのサンキューギフトの作成です。色紙にメッセージを書き、自分の写真を貼って額縁にいれ、ラッピングをして作業終了です。みんな、宿題としてメッセージの下書きをしてきてくれていたおかげで、スムーズに作業を終えることが出来ました。そしていよいよ、サヨナラパーティーの準備にとりかかります。最初に、全員で行なう「小さな世界」の合唱の練習から。回数を重ねるごとに、大きな声が出せるようになりました。続けて、それぞれの出し物の練習です。グループで行なう出し物では、リーダーを決め、生徒たち同士で協力して流れを決めてもらいました。いつの間にか体育館でボール遊びを始めた男子には、レネ先生からお叱りの声が飛びます。夏や冬のホームステイでは、丸一日、もしくはそれ以上かけて準備をするサヨナラパーティーですが、今回は半日で準備から会場設営まで行なわなくてはなりません。100名ほどが集まるパーティーです。レネ先生からも、少し緊張した様子が伝わってきます。一時間ほど練習をし、本番と同じ流れでリハーサルを行ないました。だらだらとめんどくさそうに動く生徒に対して、私からも叱ってしまう場面もありました。パーティーの最大の目的は、お世話になったホストファミリーに生徒たちの堂々とした姿を見せ、楽しませることです。感謝の気持ちを持って、本番に臨んで欲しいと話をしました。
リハーサルが終わったタイミングで、ピザが届き、みんなで早めのディナータイムをとります。ピザを食べた後は、会場設営です。メンバーみんなで協力し、104脚の椅子を観客席に並べました。すると、「え、こんなにお客さんが来るんですか?」とようやく生徒たちも、自分たちが開くパーティーの重要さの実感が湧いてきた様子。みんなが宿題として作ってきてくれていた折り紙の飾りで、会場を華やかに飾り、また、日本から持ってきた袋いっぱいのお菓子を、綺麗に並べてもらいます。25名、みんな協力して動いてくれたおかげで、本当にスムーズに準備を終えることが出来ました。レネ先生にも、「Great students!!」と褒められました。6時半が近づくと、ホストファミリーたちが続々と会場にやってきます。ずらっと椅子を並べた観客席は、あっという間にホストファミリーたちでいっぱいになり、とうとう、チームオリンピアのサヨナラパーティーの開演です。
まずはじめに、レネ先生から、このプログラムに参加してくださったことのお礼が述べられます。私からもお礼のスピーチを少し挟ませてもらい、今夜の司会者、キョウカとヒヨリにマイクを託します。“Good evening everyone!”という二人の元気な声が、会場に響きます。トップバッターは、リョウゴ、ダイチ、ケイタ、ケント、チヒロによる、個人芸メドレーです。「ロッキーのテーマ」をBGMに、まずはリョウゴのアクロバティックパフォーマンス。バク宙をばっちり決め、拍手喝采。一気に会場が盛り上がります。続いて、ダイチとケイタによるリフティング。難しそうなトリックに挑戦します。そして、ケントは少林寺拳法の披露。気合いの入った声に、会場の雰囲気も引き締まります。そしてトリを務めるチヒロの板割り。見事に板が割れるとと、思わずレネ先生から、「みなさん、彼女が女の子ってことに、お気づきになってますか?!」とコメントが入ります。パフォーマンスの幕開けを飾る素晴らしい演技で、5人が並んで一礼すると大きな歓声があがりました。2番目は、ミユ(栗)、アスナ、ソウタ、タカトモ、キョウカ、ヒヨリによるジェスチャーゲームです。司会のヒヨリから、「答えが分かったら手を挙げてください。正解者には景品があります!」と説明し、一人ずつ前にでてジェスチャーをします。アルバイト先のお寿司屋さんの制服を着たミユのテーマは、「にぎり寿司を作るところ」!! 子どもたちが元気に手を挙げて答えます。タカトモの「雪合戦」も、アスナの「卓球」も、ソウタの「野球」も。キョウカの「バナナの皮」も、ヒヨリの「バイク」も、恥ずかしがらずに堂々とジェスチャーが出来ました。大人たちも一緒になって手を挙げてくれ、とっても楽しんでくれました。3番目は、コナツ&ユカが日本から持ってきてくれていた大縄跳びをつかったグループジャンプロープです。ハルカ(川)、ハルカ(大)、チナツ、イサミ、モエコ、カホ、ミサト、メグミ、アイ、そしてコナツとユカの11名で行います。カホとハルカ(大)が一生懸命縄を回し、残りの9名が華麗に八の字を始めると、会場から感心する声が聞こえます。そして、9名全員が縄に入り、「One, two, three...」とカウントをしてもらいます。アメリカの一般的な縄跳びは、“ダブルダッチ”といって縄を二本使い1〜2名がトリックを決めながら飛ぶものだそうで、大人数が一斉に飛ぶ大縄跳びは珍しく、生徒たちが10回以上も続けて飛んでいる姿に大きな拍手が送られました。ここからは、芸術コーナー。まずはミユ(山)のバレエパフォーマンスです。にこやかに踊る愛らしい姿に、たくさんのカメラが向けられます。次にユウリのホルンソロ演奏。短い練習時間の間に、自らアレンジを考え、堂々と演奏することが出来ました。最後に、マキコのピアノ演奏。美しいメロディーに、ホストファミリーも日本人生徒たちもうっとりと聞き入っています。演奏が終わり、司会の二人から、「楽しんでいただけていますか?」と聞いてみると、大きな歓声が返ってきました。「最後は、グループで“小さな世界”を歌います。最初は日本語で、次に英語で歌いますので、英語のパートは一緒に歌ってください!」と声かけし、合唱の隊形に整列。マキコの伴奏に合わせて、観客席に届くように歌います。これまでは、遠く海の向こうにあったアメリカという国が、ホストファミリーやバディたちとの出会いを通して、より身近に感じられることになったことでしょう。「世界はせまい 世界はおなじ 世界はまるい ただひとつ」という歌詞が、自らの体験を通して理解できたのではないでしょうか。歌い終わると、アスナとミユ(山)が前に出てきて、サンキュースピーチを披露します。それぞれが自分で考えた文章を、マイクを使わずに大きな声で、堂々と発表することができました。ステージに立つ25人の生徒に、大きな拍手が送られました。
そして、レネ先生と、地域責任者のジェニー先生に記念品を贈呈し、修了式に移ります。修了式では、日本人生徒とホストファミリーに対して、このプログラムに参加したことの修了証書が贈られます。生徒たちからは、準備していたメッセージ入りの額縁が、ホストファミリーに贈られます。式がすべて終わると、用意していた日本のお菓子や、日本とアメリカの国旗がそれぞれ描かれた大きなケーキを食べながら、パーティーは賑やかなひとときとなりました。ホストファミリーの方々から、「本当に素晴らしい体験をさせてもらった。」、「ウチの子が一番かわいい!!」、「また来年も来るように日本の家族にお願いしておいて欲しい。」といった声をかけてもらいました。本当に、みんなよく頑張りました!! 残る週末、ホストファミリーとの時間を大切に過ごし、悔いのないように、たくさんコミュニケーションをとって、Give&TakeとTRYの精神を実践して欲しいと思います。
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