早いもので、今日でもう6日目。月から水曜日までの経験で、もう学校に入るのは子どもたちの中にだいぶ抵抗も無くなっているので、今日は特に午前中は落ち着いて過ごせるのでは、と期待している。学校へ向かう車の中で、TCリサはずっと「さよならパーティー」の話をしていた。会場の手配、料理の手配、参加者の数の確認や出し物用にみんなが頼んだ道具や楽器の手配など、頭の中がさよならパーティーでいっぱいなのがよく分かった。話を聞いているうちに、僕らの準備・練習が間に合い、本番が成功するのかどんどん心配になってきた。
学校に着くのがいつもより遅くなったので、僕が着いたときはもう7、8名くらいの児童が集っていた。一通り出席を確認したら、みんなの集まりを待つ合間に、気になっているパーティーの出し物の確認を進めた。昨日と演目を変更したり、合体したり、昨日とはまた結構変わった内容になっていた。それでもやはり、子どもたちがしっかり考えた上でのことなので、できるだけ尊重できるようにしながら、プログラムをまとめていった。タクミさんとリュウセイさんは、ホストマザーが高校の先生で、そこを見学に行くから、と昨日は学校をお休みしたので、2名のクラス配置を決めたら、あとはみんな昨日とほぼ同じ教室に入り、授業を受けた。
僕らが最初に訪問したのは、昨日からリサと誠さんがイチオシしている唯一2階にある教室だ。他の教室は日本の小学校同様に、学級担任の先生がほぼ全教科を教えるが、この教室は先生が固定しているが、毎時間異なる児童が来て授業を受けている。教科はリサやナザニエルに聞いてもはっきりしないが、どうやら日本で言う「生活科や総合的な学習」の専科の教室、と考えたら一番近そうだった。僕らが中へ入ると、5、6人のグループに分かれて留学生が、5年生クラスに日本の文化を教える、という授業を始めていた。まず折り紙でいくつかの作品を作り、それをグループのみんなに教える。タクミさんがとても器用にすばやく作品を作るので、横にいる男子が「Cool!!(かっこいい)」を連発していた。ケイシロウさんが、黄色い折り紙でカブトとバナナを作って男の子にあげたら、とても気に入ってカブトをかぶってバナナを刀代わりにしてずっと見えない敵と戦っていたので、誠さんと僕は一緒に大爆笑だった。程なくして今度は先生が、全員に紙を配るから、グループみんなそれぞれの名前を留学生に日本語で書いてもらう、ということになった。そこで、サツキさんが筆ペンを用意していて、筆ペンで文字を書いてあげる、というのがうれしくて、グループのみんなが盛り上がっていた。漢字でも書いてあげようとしたが、ガブリエルとかエリザベスとか、スペイン系の聞いたこともない様な名前が出てきたりで、とても苦労していた。
コウキさん、リリさんの参加しているクラスでは、世界地図を使ってアメリカと日本の場所の説明をしていた。リリさんが中心になって英語で説明していたが、北海道、九州、四国などを上手に紹介できていたのでおもしろかった。「趣味は何ですか」と聞かれてコウキさんが「空手です」と言ったら「ワーッ!」と歓声が上がったので、急遽、空手の型をひとつ披露することになった。一礼してから「ピョンヤン(平安)2段!」と大声で言ったかと思うと、黙々と、拳や蹴りを繰り出した。終わった後は大喝采で、教室の空気の大きな変化がおもしろかった。
マキさん、ヨウコさん、カリンさんは幼稚園のクラスに入っていたが、「今日でもう授業は終わりです。」と先生が告げると、ちびっ子たちは涙目になり、前に出てきて、みんなでハグをしだした。留学生がいかにみんなに親しまれていたかがよくわかり、また別れを惜しむ子どもたちがかわいくもあり、見ていて微笑ましかった。
リセス(休憩時間)には、外でコウキさんがバスケットグループに加わり、ヒーローになっていた。運動ができる人は、ただ走っているだけでもかっこいいと思うが、バスケは特に、ドリブルやシュートのポーズがかっこいい。ひとつのゴール前で二つのチームに分かれてフリースロー大会みたいになっていたが、コウキさんがシュートを決めるたびに大きな歓声が上がった。
午前中の授業が終わると、ランチを食べて、フードバンクに向かった。昨日、一昨日と違って場所が遠いので、今日は車で移動。ホストファミリーのお父さんたちが手分けして配送役をかってくれ、安心してみんなで移動ができた。現地に着くと、まず係の人がみんなを集めて、仕事内容や、作業の様子を話してくれた。フードバンクとは、地域のスーパーや食品店が、売れ残った食べ物や賞味期限は切れているが、まだ食べられる食料を持ち寄って、それを貧しい人や、食料を手に入れることのできない人たちに配る、という作業をしているところだった。小さな建物を想像していたら、とても大きなビルで、コンテナがいくつも並んで搬入・搬出ができる用になっていたので、びっくりだった。作業員は、多くが地域からのボランティアなのだそうだ。施設の中を簡単に見学してから、食料の袋詰めを手伝う作業体験に行った。
僕は個人的にアフリカのスラム地区で、ネグレクト(育児放棄)されたり、エイズなどで親を失った子どもたちの学校で1ヶ月間ボランティアをしたことがあり、飢餓に苦しむ人を見てきた経験があるので、学校では食育にとても力を入れている。説明してくれた係の人が別の担当者を呼びにいっている間に、みんなを集めて5分くらい話をした。食料は、人々に決して平等に配分されていないこと、アメリカでは平等に分配できるように協力・努力している人がたくさんいること等を話した。また、フランスでは、数ヶ月前に、食料品を扱うお店は食料を捨ててはいけない法律ができた。「日本では?」と聞くと、みんなの答えは「NO」。WHO(世界食料機構)が飢餓に苦しむ人に年間約1000万トンの食料を供給している。それに対して日本では、コンビニやデパートでは、おにぎりや弁当だけで年間1300万トンを捨てている。今日の活動の中から、何かを学び、持ち帰って欲しい、という話をした。いつもは僕が話していても聞いているのか聞いていないのかよく分からない男子までもがシーンとして、しっかり話を聞いてくれた。
係の人が来ると、いよいよ食料品の袋詰め作業を体験した。二手に分かれての作業だが、僕は食料ネットに野菜を入れる側の担当グループについた。レタス、ジャガイモ、オレンジを順にネットに入れていき、最後にネットの口を縛って大きな箱に入れる。やってみると、入れる物の順序と置かれている物の順番が合わないことや、レタスが傷つきやすいことや、ひとりで全部の工程をやると作業が遅いことなどがわかってきた。そこで作戦タイム。置かれている物の順序を並べ替えたり、オレンジ係や袋結び係など、自分たちで作業を分担しだした。ここではリリさんとナツコさんがすばらしいリーダーシップを見せた。力のある男子の位置、結ばれているネットの結びをほどく人、最後に縛る人など、上手に担当を決めた。働きながら「こんな人のためになることを仕事にできたらいいね」「今日はいっぱい働いたから、きっと夕食がおいしいね」など、素敵なつぶやきがたくさん聞こえてきた。ずっと早回しで全体が動いているので「少し休憩しよう。」と何度も呼びかけたが、なかなかみんな応じようとしなかった。途中で見に来た係の人がテキパキと動く子どもたちを、目を見張るようにして驚いて見ているのが面白く、また嬉しかった。
作業が終わると、リサと係の人から最大のお褒めの言葉を頂いた。こんなに一生懸命働く子どもは見たことがない、ということだった。ここでまた僕が前に立つのは少ししつこいが、「みんなの働きが、人の命を救ったり、喜びを与えたりするんだよ。」「働く喜びの声がたくさん聞こえたことが嬉しい。」「この喜びを、自慢するのではなくて、同じ喜びを味わえる人が増えるような活動を今後考えて欲しい。」といった旨のことを話した。今日は子どもたちにとって英語や異文化交流以外のなにかを学ぶいい機会になってくれたらいいと思う。すがすがしい顔でみんなの作業が終わり、今日の日程は終了。帰りもまた、ホストの協力を得て学校に帰り、明日はいよいよお別れパーティーなので、準備をしっかりしてくるよう伝え、解散した。
明日は授業もほとんど受けず、学校であるブックフェア(本の販売)を見た後はさよならパーティーの準備でほぼ1日を使う予定だ。夜の本番に向けて、うまく休養をとりながら飾り付けや練習を行い、パーティーを成功させたい。
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